朱鷺の暮らす島へ


 娘がまだ小さくてそれほど長距離の旅行には連れて行けないので、奥様に頼み込んで今年も一人でロングツーリングに行けることになった。もちろんXR−BAJAで。
 6月末から7月初めという変な時期の夏休み(交代で取るから。そういう仕事。)で、雨に降られるのは間違いない。でもやっぱりテントを積み、ドロドロであろう林道を目指してしまうのだ。

 行き先は佐渡島に決めた。最近、朱鷺の雛がようやく誕生し、注目を集めてる(かもしれない)ところ。別にそんな理由があったわけではない、ただ行ったことが無かったから。東北や北海道に向かうとき、関東近辺を走りたくない私は必ず長野・新潟回りで走っていったのだが、近くを何度も通りながら結局一度も渡ったことが無かった。7年ほど前に北海道に行ったとき、ついでに回ることも計画したが、直江津からのフェリーが取れなくてボツになった。何年越しかの日本一周のパズルを完成させるため、とりあえず行くことだけが今回の目的だ。

 

 初日、名古屋の自宅から奥様と娘に見送られて出発。高速は極力使わないつもりなので、R19を延々と長野へ。当面の目標は野沢温泉あたりまで。
 普通R19は結構流れる道なのだが、光ファイバーの埋設工事中とかで、中津川を過ぎてから長野まで十数カ所も片側交互通行になってた。事前に情報を仕入れるべきだったか・・・少し雨にも降られ、予想よりもかなり遅いペースで北上する。

 このままでは・・・特に予定らしきモノも無い旅だが、島に渡るフェリーのことを考えると、今日中に距離を稼いでおきたい。長野市の手前ですでに夕方5時、市内の渋滞を考えて高速を飯山まで乗ることにした。
 XRはさほど高速を苦にしないバイク。しかし今回は事情が違った。前日、実はパイプを切られてガソリンを抜かれていた。急場で他のパイプを用意しそのまま来てしまったのだが、どうもそれがまずかったらしく、キャブの不調で2Kも走るとエンストしてしまう。一般道はあまり問題ないが、アクセルを開け続ける高速ではガスの供給が追いつかないらしい。路肩に止まって少し待ち、また2K走り、止まり、を繰り返す。危ないので予定より手前の信州中野で降りた。


 ICを出た時点でもうかなり暗い。これ以上進むのは無理とあきらめ、豊田村の温泉公園もみじ荘でとりあえず入浴。試しに受付で頼んだところ、閉館後にテントを張らせてもらえることに。しかも、「明日の朝は雨が降るよ。入り口の横で屋根の下に張りなさい。」というありがたいお言葉。頼んだのは駐車場の端だったのだが、素直に甘えさせてもらった。夕食も館内で済まし、キャンプにしては遅い時間に就寝。

 

 

 2日目、とにかく島に渡ろうと、直江津港を目指して朝7時に出発。本来は新潟県内に入ってから数本の林道を走り、寺泊→赤泊のフェリーを利用するつもりだった。しかし、XRがこの調子では林道も満足に走れない可能性が高い。どうせおまけのつもりだったので、今回は林道は重視しないことに決めた。
 そうなると上越などすぐに着いてしまうところで、9時40分のフェリーで佐渡島、南端の町・小木へ。
 本土でも降ってはいたが、島に着いたら叩き付けるような雨だった。全身レインウェアをフル装備し、滑って怖いフェリーのスロープを降り、昼ごろようやく上陸。

 「スカシユリ」の咲く海岸線を、時計回りに少しづつ走っていく。強く降ったり止んだりを繰り返す雨の中、思った以上にペースが上がらない。悪いことに、初めてツーリングに使ったヘルメットがきつく、偏頭痛がひどくて1時間と走っていられない。悪コンディションの中、とにかく写真だけは撮りながら距離を稼いでいく。

 15時頃、西三河ゴールドパークへ。佐渡島と言えば朱鷺、だけではなく、大昔から有名なのは金。しかしすでに閉山し、現在金の産地として有名なのはなんでも鹿児島の方らしいが。
 600円なりの入館料だが、展示は別に大したモノでは無い。むしろメインは砂金取り体験館。底に砂の入った水槽に専用のざる(みたいなやつ)を持って立ち、底からすくって揺らしながら砂を落としていくと重い金が残るという・・・ちょうど観光バスが着いて、大盛況になった。

 自分も2つぶほどGETしてきたが、かと言ってほんの数ミリグラム(にも満たない?)、制限時間30分だがすぐ飽きた。しかし居並ぶおじさま&おばさまがたは血走った目で真剣にやり続けている。全然関係ない私がカメラを向けても、誰一人気づいてない・・・

 さて、問題は今晩の宿。テントがあるから別にどうでも良さそうなモノだが、島で2泊、1泊はどこか宿を取ろうと決めていた。テントで雨ざらしになりたくないという、すでに人間がよわよわなので(笑)
 西三河GPから「かんぽの宿・佐渡」に電話して、今日明日の空室状況を確認。本当は1日目をテント、2日目をホテル等でゆっくり過ごし、リフレッシュして帰るつもりだったのだが、帰りのフェリーの都合もあり、そうも言っていられないようだ。しかしまずいことに土日だった。日曜日はともかく、土曜日に空きは無いだろう・・・とあきらめ半分だったが、すんなり「何時頃いらっしゃいますか?」という返事。まだシーズンじゃないから?空いてるらしい。

 「かんぽの宿」は低料金だが、必ずいい場所に造られている。ここも違わず、両津市の市街地からは少し外れるが、加茂湖畔の高台で静かな場所だった。ゆっくり温泉に浸かり、施設内のカラオケスナックでおじさまたちの歌を聴きながら夕食(&生ビール)をとり、早々に部屋へ。
 持ってきたカシオペアでガソリンの領収書などを集計。さらに自宅と兄貴にメールを打とうとするが・・・PHSが使えない。しかもアナログモデムを忘れてきてしまった。今回はメールを打つことはまず無理そうだ。まったく、今はどこにでもグレ電があるから、わざわざリチウム単3を奮発したのに・・・
 結局やることが無いので、22時にもならない内に寝てしまった。

 

 

 3日目、完全に雨は上がったらしく、待ち望んだ青空が広がった。
 今日は結構走らねばならない。もちろん北端まで行くからなのだが、その後南端の小木まで戻るつもりだから。調べたところ、小木→直江津のフェリーは始発6時半、次発は10時10分。2時間半の航路なので、明日中に名古屋に帰ろうと思うと始発に乗る以外手はないのだ。

 まずはほんの少しだけ移動して、新穂村の「佐渡朱鷺保護センター」へ。主要道から細い道に入っていくのだが、センターまでの道には両端に「朱鷺誕生」のピンク色ののぼりがたてられ、絶対に迷わない。地方自治体の力の入れ具合がうかがえる。

 私がツーリングに出た直後、雛の名前が「優優」と決まったらしい。まだ手書きで書かれていた。
 当然雛にはお目にかかれるはずもない。いかにも「元気」という動きを撮ったビデオが流されていた。ライブ映像の画面もあったが、ここに姿が見えるのはおそらく餌時だけだろう。

 親鳥も当然実物は拝めない。が、繁殖期間中だから、とのこと。普段はいいのか?国際保護鳥だが、少しは客寄せしないと資金面に無理がかかるからだろうか?

 ただし、他の種類の朱鷺も飼育されているので、それらはケージのそばで見ることが出来る。
 これは・・・なんだっけ?ベニトキ?ヒメトキ?・・・忘れた。
 しかし、本当に自治体の力の入れ具合は相当なモノ。北陸郵政局(だったかな?)もまた然り、朱鷺の絵入りはがき、ふるさと切手も発売されるとか。
 センターの駐車場横で、新穂郵便局が臨時出張所を出していた。日曜日だというのにご苦労なことだ。立っている人はTシャツだが下は緑ズボン、どうやら局員のよう。自分は休みで遊んでる手前、どんなモノを売ってるのか見に行くのはやめた。

 朱鷺保護センターを出て、大佐渡スカイラインへ。周囲300Kほどしか無い島だから、主要観光地間もそれぞれかなり近い距離で移動する事ができる。

 大佐渡スカイラインは、小さなコーナーのワインディングを標高千mあたりまで駆け上がる。路面は途中から左のようなコンクリートになり、ロードタイプでは怖いかもしれない。しかしOFFにはなんてこともなく、快調に高度を上げる。

 一番上の「白雲荘」付近、地図には「大パノラマ」とあるが、あいにくの霧(雲?)で何も見えなかった。少し休憩した後高度を下げていくと、眼下に島南部の景色が広がった。

 スカイラインを降りきると再び海岸線に出る。結構寄り道してるのに、朝の内だけで横断できてしまう島。
 海岸線、「佐渡島一周道路」に出たところでひとまず南下。北上すればすぐに尖閣湾という景勝地なのだが、一応島の外周はすべて走っておきたいので、昨日両津市側に東進したあたりまで戻る。

 余談だが、ずいぶん前から雑誌の投稿とかでも取り上げられてる、有名な佐渡島の「変な交通標語」の実物を見た。他にも「シートベルトはアタリメー」「スピード違反9千円、スルメイカ500円」などなど・・・イカ関係ばっかり?ブームなのか?


 12時過ぎに尖閣湾の観光船乗り場へ。2時間置きに就航されてるのだが、わずか数分違いで乗れなかった。2時間待つ気は無く、とりあえず昼食を取り、ある程度風景写真を納めるのみ。まあ多分「能登金剛」に似た感じのところではないかということで、もともとそれほど興味が無かった。
 それより、いよいよこの後林道に突入する。それを重視した旅では無いが、荷物のパッキングなどもそれなりに攻めれるだけの状態には仕上げてきた。でなければ、OFFで旅する意味は薄くなってしまう・・・と自分は思うのだが。
 広域林道石名和木線入口。災害復旧中で通行止めだった(涙)。梅雨の時期にはよくあることだが・・・
 でも入って行く悪いヤツ。別にゲートも無かったから。
 とても締まった路面・・・と言うより、これは舗装される直前か。この写真はもうダートも終わりの方、ここから上は舗装されてる。
 一応、行けるところまで行こうとかなり登ったのだが、やはり途中でトラ柵で止められていた。そのあたりで休憩しようかとも思ったのだが、黒光りしてて草を食って反芻してる方々が先客でいらっしゃった(放牧中?)ので、とにかく途中まで下山した。
 再びダートが始まるところまで降り、沢で顔洗ってしばしコーヒーブレイク。
 バイクの調子も考えると、今回のダート走行はこれで終わってしまいそうだ。

 結局、林道走行はこれだけで終わってしまった。それで何がBtOrのネタになるというのか・・・とも思いながら、開き直ってオンロードツーリングを楽しむことにする。



 その後はのんびり・・・とはしていられないが、なかなか景色のいい外海府のあたりを気持ち良く走る。さっきの尖閣湾でもそうだが、やはり地理的な関係か、能登半島の北端部分に似た雰囲気があるように思う。
 ガイドブック等にもよく写真が出る大亀を経て、16時頃にようやく北の端、二つ亀の見えるJR佐渡テント村にたどり着いた。 余裕がある旅ならば、もうここで泊まってしまいたい気分だが、さすがに独り者の時代とは違いそうそう自由になるわけでもない。
 ここで、今回初めてバイク(ジェベル)の人と言葉を交わした。というより、ツーリング中のバイク自体まだ数台しか出会っていないし、その中でもオフは初めてだった。「林道って走りましたか?」と聞いたら、「いや、災害復旧工事中だって聞いたから。」・・・なるほど、事前に情報を仕入れてるわけで。賢明ですな。

 そこに泊まるというジェベル君と別れ、自分は再び小木へと走る。もうすでに16時も回っているが、まさに北の端から南の端まで、一気に駆け下って行くのだ。100Km以上あるのだが、野営や風呂の都合も考えると、せめて19時ぐらいまでには着きたいところ。

 だんだんと暮れていく海岸線を南へと向かう。途中、灯台のあるキャンプ場でまたしばし休憩。ここもいい・・・結構のんびりと過ごせそうなところがある。ここはちょうど一番本州に近い場所なので、かなり近くに他の陸地が見えていた。

 しかし、考えてみれば当然なのだが、ぐるっと走ったどこでも海が見えて、それぞれ生活感のあふれた家並みがある。気が付いたら、自分は「島」というところをあまり走ったことがない。以前小豆島に行ったことがあるのみ。小豆島は小さいがもっと観光地化されていたような記憶がある。だから、これだけ素朴な漁村風景がずっと続くとはあまり予想していなかった。
 そして相川・両津という島の中心あたりは逆に、予想以上にちゃんとした「街」で、大規模なホームセンターやショッピングセンター、紳士服のチェーン店なども進出してきていた。失礼な話だが、なんかもっと田舎を想像していたし、わずか周囲300Kの島で夕方になると渋滞するほど車があふれるのに心底驚いた。そこには名古屋なんかとさほど変わらない生活があり、道行く高校生たちもほとんど同じ格好をしていた。自分がもともと田舎者なので、どこでもそんなものだと思っていると大間違いだったようだ。

 小木港には予定通り19時過ぎに着いたのだが、その後風呂に入って野営地を探そうとしていたら道に迷ってしまい、再びフェリーターミナルの所に戻ったのはもう21時半も過ぎていた。近くにいい場所が無く、あまり遠いとテントの撤収に時間を食うので朝6時半には間に合わなくなる可能性もある。結局、覚悟を決めてターミナル付近で一夜を過ごすことにした。仕事柄、一晩中起きていることも別に苦にならないので、寝れなければそれまでのこと、フェリーに乗ってから少し寝ればいいのだ。


 他に人はいないので、その辺にある机とかも勝手に使い、しかもご飯まで炊いて食べるというやりたい放題。実は今回、自炊をするのはこれが最初で最後だったのだが。

 その後、一度全部荷物をほどいてパッキングし直し、夜中2時頃までかかって帰り支度を整える。あとはカシオペアでこのツーレポでも打とうと思っていたのだが、海辺なのに何故か蚊が多くて、とてもじっと座っていられない。仕方ないので明るくなるまでその辺をうろつくことに。

 右の写真は、これも名物のたらい船。これで漁をするらしいが、体験で乗ることが出来る。フェリーターミナルの近くにあった。

 

 その後は5時を過ぎて明るくなってきたので、駐車場のど真ん中でXRの横に寝っ転がっていた。結局ほとんど眠れなかったが。

 

 

 翌朝、予定通り6時半の直江津行きフェリーに乗船、その後は名古屋へと進路をとる。結局あまり実のある旅では無かったが、せっかく行かせてもらえたロングツーリング、何事も無く帰り着くことが一番大事。
 家に帰れば、娘が笑顔で迎えてくれるだろう・・・

写真・文 : 河村 敬


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