File77 白馬の野湯

 信州には多くの温泉地があります。
 そのほとんどが名の知られた温泉街。雪と温泉、という好条件が得られやすいのも信州の温泉の愉しみ。

 しかしそれとは別に、もっとディープな温泉もあります。

 そんな温泉が集まっている場所のひとつ、それが白馬界隈。



 安曇野から山へ向かう。
 北アルプス燕岳への登山口でもあるため、時間によっては交通量が多く、駐車場がいっぱいになることもしばしば。路線バスも通っているので狭い道に注意しつつ奥へ奥へ。



 ここ中房温泉は一軒宿に十数カ所もの風呂を持つのだけど、宿の温泉は外来入浴を認めていない。
 外来専用の浴場ができており、2種類の源泉をかけ流した露天風呂がある。

 ・・・それだけではただの温泉。



 近くの川を眺めてみると・・・

 湯気の立っているところがあるわけです。

 中房温泉が多くの風呂を持つのは、こうして湯が豊富に沸いているから。温泉宿より離れた場所にもこうした湧出箇所がある。



 ・・・しかし。

 この日は天気は良かったのだが、なぜかこの近辺だけが雨。
 増水した川には近づくことができなかった。

 この川のどこかに、快適な湯だまりがあるという。
 何度か訪れてはいるのだが、いつも雨に妨げられて見つけるにいたっていない。



 山を下りて白馬へ向かった。
 白馬八方尾根の麓にはいくつもの浴場があり、アルカリ性の強い良質の湯が使われている。



 その中で、冬はスキー場に遮られるのが「おびなたの湯」
 露天風呂だけのシンプルな浴場だが、虫が多い様で蚊帳をかぶせてあるのは興ざめ。

 なので、ここには入らない。



 林道を歩く。
 どことは言わないが、ゲートは車両では通過不可能。ゲート横も人が通るのさえ困難な状態。
 整備されているのは、この奥で工事があるため通行が少なからずあるから。土曜日は工事を行っているので、ゲートには警備員がつく。日曜日でないとこの林道を歩くのは難しそうだ。



 かれこれ15分も歩くと、ポンプ小屋らしき建物がある。
 ここが八方温泉の源泉になり、八方尾根周辺の温泉へ引き湯されている。



 近くの草むらを見ると、明らかに踏み跡が・・・



 下をのぞくと、そこにあるのが通称奥小日向と呼ばれる野湯だった。
 源泉からあふれた湯が、崖下に捨てられていた。それを貯めたのがここの始まりだったのだろう。



 一度、この野湯は破壊されている。数年前のことで、いろいろな問題があったのだろう。
 その後、有志の手などでまた湯船が作られていた。過去のものよりはいくぶん小さくなったと言うが、野湯としては立派な湯船ができている。



 掃除をして保っている人たちがいて、このすばらしい湯がある。



 この湯はもちろん源泉掛け流しである。ちょうど良い温度になっているが、熱いと感じる向きもあるかもしれない。
 湯船の下、さらに崖を下ると、もうひとつの湯船がある。こちらは簡素だが、崖を流れる分温度は低くなっている。

 ただし、ここを降りるのは少々危険で、ロープも用意されているが自己責任で。

 この温泉は国内でもトップを争うアルカリ度数の高さ(PH2.2とか)を誇る優れた湯だが、林道の歩きとゲートの問題などあまり進められたものではないのだが・・・



 ところが。
 林道から川を挟んだ対岸にも林道がある。
 そしてこちらは通行に支障がない。多少斜度はあるが、慎重に走れば大型バイクあるいは普通自動車でも通れる程度。その林道を行き止まりまで走る。



 そこから対岸を見ると・・・

 おわかりですね。

 川を歩いて渡らなければならないので増水したら危険。これも自己責任が前提になるが、とがめられることなくたどり着け、また歩くのもすぐそこまで、ということも含めてこちらの方が良いと思われる。



 白馬を離れ、大町から高瀬渓谷を目指す。
 車で行けるのはここ七倉ダムまで。

 ここから先はタクシーでもうひとつ上のダムまで、そしてそこから数時間歩くことで、湯俣温泉に行く。ここも野湯で有名なのだが、いかんせん歩く距離が半端ではないのでハードルが高い。



 こんな風にゲートがあり、監視されているから車やバイクの進入は不可能だ。

 しかし、歩いて入ることには問題ない。登山道があるからだ。



 登山道を歩く。登山道と言っても本格装備が要るほど歩くわけじゃない。



 崖下を見ると、太いパイプが見えるようになってくる。
 これは昔使われていた温泉の送湯管の様だ。すでに破れているところもあるので使われているものではない。

 送湯管があるということは?



 川原まで降りると・・・
 岩陰から湯気が見えた。



 そこにあったのは、紛れもなく浴槽だった。



 岩の間から熱い湯が湧いていた。
 そのままでは熱湯なので、川の水で冷ます必要がある。幸い地形的に流れが段になっている場所で、上の岩の間から川の水を引くことができる。それにより源泉掛け流しではなくなるが、川の水も十分なミネラルだろう。
 流すのは簡単だがせき止めるのが少々難しいので、土木工事の余裕を見て温度調節する。



 湯船の湯には、溶き卵のような湯花が。
 こんな野湯だから、掃除を必要とすることもある。水温が高ければ藻になりやすいからだ。それも含めて野湯

 ともあれ、小さな滝を見ながらの入浴がここの最大のポイント。

 どの野湯にも共通することだが、施設ではないので清潔なわけではない。
 また安全なわけでもなく、行けば必ず入浴できるものではない。自己責任のなかでも最も高いところでの判断をしてほしい。



 少し下ると、葛温泉。
 一番奥にある高瀬館の露天風呂も爽快。



 そしてその葛温泉なのだが。
 川の中を注意深く眺めると・・・



 ここにも湧出が・・・

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