春なのに、春なので

 冬が過ぎ、春が来て。
 今年もまた、オートバイの季節がやって来る。
 
 冬も走りたい自分に春=シーズンインの感覚は薄いが、マスツーリングに限れば話は別だ。
 3月から始まる、馴染みのショップの月例ツーリング。
 冬眠から覚めた仲間達が、今年も朝早くから店に集まった。
 
 3月の行き先は例年同じ。ルートも基本は変えない。
 だから、というわけではないだろう。昨年は15台ぐらい集まったが、今年は7台。朝方まで止まなかった雨で、中止と思いこんで来なかった人は居るかもしれない。でも、正直昨年の方が違和感があったぐらい、10台に満たないのが普通になっている。
 仲間の誰かがバイクを降りた、という話は聞いてない。でも、オートバイが売れず、仲間が増えることもない現状なんてそんなものだ。
 
 そんな中でまた1人。今回がラストランだと言う。
 4月から大阪の本社に転勤だそうだ。元々あちらの方が地元らしく、関西弁を扱う。でも、入社してすぐに名古屋に来て、早15年。
 
 春なのに、お別れですか?
 涙がこぼれ…たりはしないよ。
 春はお別れの季節です。みんな旅立って行くんです。
 
 転勤で、そんな遠くじゃなくても簡単に店まで来れなくなった仲間が他にも居る。それでも皆、秋の一泊ツーリングには途中合流や現地集合で参加している。長身のライダーで400のように見えるCB1300の姿も、これが見納めというわけではなさそうだ。
 
 山の中、ワインディングを走り繋いで東へ進む。
 600のレプリカ勢と隼が、最後尾を走る唯一の400やシングルのファンデューロを無視して加速していく。それはでも短い直線の間だけ、雨上がりで濡れた部分も残る路面、コーナーではあっという間に差が詰まる。
 
 日差しの届かない曇り空、気温の上がらない午前中。最初の休憩場所まで、道路脇にある温度計の表示は最高でも7度だった。
 春なのに、寒い?いや、今はまだこんなもの。ジーンズに3シーズンジャケット?の連中は寒くてたまらないと言う。冬でも通勤とかで普通に走っている自分とRVF400は完璧な冬装備。今日は暖かくていいな、なんて話をする2人。
 
 春なのに、いや春なので天気は不安定。降り続く雨でなかったのはツーリング的には幸いだが。
 運悪く、黄砂警報が出ていた日。雨が降る直前、まるで霧のように辺りが霞んで見えた。青いジャケットを黄色くするほどの黄砂は、わずかな通り雨で茶色の水玉となってスクリーンの視界を遮った。
 
 いっそ、もっと降ってくれれば。カッパも持ってこなかったくせに勝手なことを思う。
 まあしょうがない。それもまた、春だからこそ。
 
 春なので、春の味覚を。
 みんなまだ若く、女性ライダーも多かった頃はイチゴ狩りなんかにも行っていた。さすがにおじさんばかりでは…ね。
 変わらない行き先に、残ったのは昼食のウナギだけ。
 
 春なのに、ウナギですか?
 …いいじゃん、いつ食べても。浜名湖に来て他のものって手はないだろう?
 
 まだ150kmぐらい。でももう気持ちはユルユル。
 帰りは高速で、という話が出る。予定は下道だった。異論を唱える者無し。高速走れば100kmも無い。
 
 今年も1年、こんな感じで…
写真・文 : 河村 敬

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