そして、終幕

〜Rhapsody in Blue〜

 「阿呆と煙は高いところへ上る」

 あー、どうせそうですよ、わたしゃ阿呆ですよ。
 それを言うなら、

 「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損々」

 てな心意気ですわな。


 乗鞍マイカー登山の最期という名の狂詩曲、自分の踊る番がやってきた。


 思い入れ、という意味では、バイクより車の方が強かった。
 バイクで上るより、車で上りたかった。これまでバイクは1回、車では3回訪れたことになるか。
 かねてから不調のバイクも手伝って、さらに直近の忙しさも加速して整備もままならず、車で行く気になっていた。

 しかし。

 会社を早く(その頃にしては)終われたことで少々迷いが生じ、会社から家に帰り着くほんの信号2つ手前で、バイクを整備してみるか・・・という気になった。
 いや、その信号の脇に洗車場があって、車で行くならそこで洗車するつもりだったので・・・時間があるからバイクをばらしてみて、なんとかなりそうならバイク、ダメなら車、と。



 結果は、こういうことだ。

 深夜2時半の中央道、寒さにありったけの服を着込む。乗鞍はもっと寒いはず。



 時間の計算が甘く、明るくなってしまってからエコーライン入り口にたどり着く。
 このゲートが開いている時期にここに来たことがない。長野県側はあくまでスキー場として来るのみで、走る目的はいつもスカイライン往復だったから。

 このエコーラインも、10月31日をもってマイカー締め出しとなる。
 初めて走るこの日が、最期に走る日になってしまった。



 乗鞍高原スキー場のゲレンデ内を通り、標高を稼いでいく。
 完全に夜が明け切った空は青く、雲の姿を見つけることができない。

 今日の会議がなくなったことに感謝。

 ひょっとしたら最期の好天に恵まれる週末となるかもしれない。
 そこに巡り会えたのは幸運と言うべきか。

 最期になって踊りの輪に加わった狂詩曲。青空の下に。

 Rhapsody in Blue



 ほぼ順調に上ってきたが、ここへ来て大渋滞になった。
 渋滞でもバイクならなんとかなるだろう、と想っていたが、そのバイクが渋滞の中に沈む。

 何のことはない、パニアケースが邪魔で車の間を通れない大型のバイクが、通れるはずのない隙間に頭を入れて止まっているからだ。
 こうなってはバイクの機動性も何もあったモンじゃない。件の大型車が畳平に到着したのはそれから4時間以上経過した頃だった。車と同じ歩みを進んで。

 まあ、交通道徳上はそれ(すり抜け等しないこと)が当たり前でもあるのでしょうが。



 そして、一番高いところへ。



 ここまで来てそのまま帰ったのではあまりに味気ない。ここはひとつ、登ってみることにする。
 目指すはもちろん、乗鞍の頂。



 10月に入って気温が下がり、すでに初雪も観測したという。名残の雪が少し。池の表面にも薄氷が張る。



 乗鞍の登山道は観光登山でこなせるレベルだ。山頂までは1時間半の道のりとある。
 気軽故に多くの人でにぎわう登山道で人の列に続く。特に何も考えることなく、流れに乗って。

 これも狂詩曲のワンフレーズ



 しまった、冨士見岳山頂に登ってしまった・・・
 無駄に体力を使ってしまった。



 とりあえずパノラマ撮影など試みてみる。
 銀鉛写真では定番の方法だが、露出も何もフルオートで撮ったデジタルの写真を色の調整もなくそのままつないで見る。



 私は登山者ではないので、石積みの意味は知らない。
 「登山」と気負わず、いつもの山行き(林道行き)と同じ程度の軽い気持ちで登ったが。



 標高の高さと寝不足で登頂は断念。コロナ測候所までであきらめる。
 ここまでは車道がある(一般車は走れないが)程度なので登山とは言えないのだろうけど。



 畳平のレストハウスに降り、飛騨牛の串焼きなどを賞味。
 長野側から上ったが、信州より飛騨路のイメージが強い。



 BACKtoOFFroadの協賛トップ、石井さんが来ていた。
 バイクを並べて記念写真など撮りながら。



 メシでも喰うか、と食堂へ。またまた飛騨牛で。
 標高の高いここまではもちろん水道など来ているわけはなく、食事に水のサービスはない。
 登山者なら水は持っていくものだろうが、軟弱な観光客は水を買って飲む。



 さあ、狂詩曲のサビに向かおう。

 車で埋め尽くされた登り車線を横目に、しかしゆっくりと下る。



 望岳台は標高約2000mの地点。
 2002年、乗鞍マイカー最期の年に合わせるように、約2002mの看板も立つ・・・



 森林限界線を下回ると、途端に色づいた木々が目に入り始める。
 下界より1月は早い紅葉が美しいコントラストを見せる。

 そして空はあくまでも青く。



 スカイラインのゲートをくぐる。
 狂詩曲から離脱するとき。



 平湯峠の3差路でスカイラインに別れを告げる。

 できれば終幕を見たかったが、それがかなわぬことはわかっていた。
 狂詩曲が止む瞬間は、テレビででも見ることになるか・・・ 

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