しまなみ海道


 ”しまなみ海道”という道がある。広島県尾道市から愛媛県今治市までを、島々を橋で結びながら渡っていくルート。いわゆる本州−四国間の3つの陸走ルートの中の1つなのだが、車で渡るルートとしてはあまりにも大回りしすぎるので、四国へ急いで渡りたい場合にはまったく向いていない。しかしこのルートには、他のどこにも無い大きな特徴がある。
 6月に入ってすぐ、2〜4日に3連休を取った。勤務指定の切れ目で都合の良いところを探したらここになっただけだが、梅雨入りの気配も無く、旅に出るには絶好のチャンス。妻に相談して了解を得、久々に2泊3日のソロツーリングに出掛けることになった。行き先は、その”しまなみ海道”である。
 現在、手持ちのマシンはRZ250Rとストマジ110。RZでかっ飛ばすのも良いのだけど、今回はストマジで。3日間という限られた時間を有効に使うため、ストマジ+トランポで高速も使い、一気に距離を稼ぐ。しまなみ海道を行き先としたのは、この組み合わせにこそ大きな意味がある。
 ところが、ツーリング3日前のこと。自分の不注意で、事故を起こしてしまった。
 長女が高熱を出したとの連絡を妻から受け、仕事を1時間早く切り上げて家路を急いでいた。同僚に「慌てて事故るなよ」と言われていて、もちろんいつも通り気を付けて走っていた・・・つもりだった。やはり焦っていたのか、信号からの発進直後に左の車線に移ろうと機をうかがっていて、前を走るトラックが急ブレーキをかけたことに気づくのが一瞬遅れたのだ。ブレーキをかける間も無く、トラックのコンテナに頭から激突してしまった。
 幸いにも、背が低くてタイヤ径の小さなストマジは、トラックの下に潜り込む形になったため、接触したフロントフェンダーの前側が大破して無くなっただけだった。あとはハンドルバーに少々ひねりが出た程度か。人間の方はモロに頭から突っ込んだため、すべてをヘルメットで受け止めることになったが、首が少し痛いかな?という程度。念のため病院で精密検査を受けても「どこもなんともないねえ?」と、医者に不思議がられたぐらい、ほとんど無傷に近かった。
 ぶつかった直後は、計画断念か・・・と思われたが、人もバイクもなんともないならやめる必要は無い。相手のトラックが止まらずに走り去ってしまった(面倒だから?逃げた?もしかして気が付かなかった?)のも、ある意味ラッキーだった。妻の心配は当たり前だが、せっかくの機会を無駄にしたくない。ツーリングは予定通り行くことにした。
 ツーリング直前の休みを病院での長い診察に費やしてしまったので、出発前夜、娘たちが寝てから準備を始める。ある程度、必要と思われるものは部屋の中で揃えておいたのだが、まずは何よりストマジが積めるかどうかが問題。実はトランポはワゴンRなのだ。荷物スペースが限られること、長距離に向いていないのは承知の上。普通車よりも安い高速代、倍近く伸びる燃費。そういう打算的な理由よりも、ワゴンR+原付といういかにも無理っぽい組み合わせで、どこまで行けるか?というのを試してみたかったのだ。
 ところが・・・ストマジが入らない!
 カタログデータのラゲッジサイズだけで入ると思い込んでいたのだが、実際には高さが少し足りなかった。特にウチのワゴンRは、つり下げ式のリアスピーカがリアゲートの頭に付いているので、まずここを通り抜けることが簡単ではない。斜めに上げればなんとか通れたが、そこから先に行こうとしても天井に引っかかってしまうのだ。
 ハンドルを手前に倒せば、もしかすると入ったかもしれない。しかし、ツーリング前夜にあれこれと試している余裕は無い。今回は、ワゴンRを使うことは諦めざるを得なかった。またいつか、積み方を工夫するか、もしくは一時的に実家にあるモンキーを持ってくるか・・・
 ワゴンRが使えないとしても、ツーリング自体をやめることにはならない。軽がダメなら普通車、MPVを使えば良いだけの話だ。元々MPVの方が自分の車、ワゴンRは妻の車。積めないのはある程度予想できていたことだから、妻にも計画段階でそう伝えてある。
 7人乗りのMPV、サードシートを反転収納すれば、4人乗車状態でワゴンRの2人乗車よりも広大なラゲッジスペースを得ることが出来る。さすがにストマジを積むためには、セカンドシートを最低でも5cmほど前にスライドさせないといけないが、それでも十分4人で座れる。今回はソロなので、左セカンドシートを目一杯前にスライドさせた。
 輪留めになる部分には、念のために厳重に段ボールを当てて保護をしておいたが、セカンドシートを一番前に出すと台座に当たるだけでシートバックには触れないので、傷が付く心配はほとんど無くなる。ミラーを外せば高さはOK、長さもギリギリ大丈夫。タイダウンベルトはシート下のグリップ部を両サイドから引く形で。念のためハンドルにも1本かけておくが、はっきり言って意味はない。まったく安定しているのだ。車体を斜めにして位置を合わせるのに多少力が要るが、慣れてしまえばMPVへのストマジの積み卸しは、数分で可能な作業だ。
 6/2。昼頃にようやく家を出た。ルートなど特に考えてない。ナビの示す通り、ひたすら高速を走っていくだけだ。
 2日目にしまなみ海道をゆっくり楽しむために、初日のうちに尾道まで行っておきたい。約500km、中型のバイクでは少し無理をする必要のある距離。車でも、当初の計画通りワゴンRならば、やはり朝早く出発して休み休み行く必要があっただろう。しかし、MPVにはなんでもない距離だ。さすがに日曜日の昼間では500kmを5時間なんて無理だろうが、それでも夜までにはなんとか行けるはず。
 家からすぐの名古屋ICから名神に入り、ひたすら西へと走り続ける。吹田JCTから中国道、神戸JCTから山陽道へ・・・
 誰かさんの嫌いな西宮名塩SAで、少し遅めの昼食。これが2回目の休憩である。休憩を取るほどの疲れは感じるはずもなく、1回目の休憩を入れた養老SAは本当にただ停まっただけだった。ここまで約200km、2時間ちょっとで来れている。日曜日だが思ったより車が少なく、かなり自由なペースで走れるのだ。
 もしかすると、車が少ないのはこのあたりに理由が・・・SAで休憩中にTVを点けたら、ちょうどワールドカップ、アルゼンチン対ナイジェリア戦の真っ最中だった。自分も見たかった好カード(両チームとも1次リーグ敗退してしまうのだが)、出かけるのをやめて家でおとなしくTV観戦してる人も多いだろう。来る途中、「長居陸上競技場周辺、試合当日通行規制中」との案内表示に、セレッソのホームが大阪のどの辺にあるのかよく知らないのでビビってしまったが、名神とは離れた場所らしいのでまったく影響は無かった。
 このまま中継を見たい・・・が、ノーマルのままで走行中は音だけになってしまうので、あきらめてナビの画面に戻し、音声もFMに。走行中のBGMはほとんどFM、あとはMD少々。バイクとは違って、のんびり音楽に耳を傾けながらのお気楽な走り。
 妙に車が少なくて、なんとなく現実感の無い山陽道を一気に走り、午後4時半頃には岡山県に入った。吉備SAで3回目の休憩。
 予想通りの順調な走り。ほとんど足を乗せているだけのアクセル、右手一本で触っているだけのハンドル。250ccのバイク、特にオフロードタイプだと相当疲れを伴う100km/h前後での長時間走行も、町中を流している時と何も変わらない。風切り音やエンジン音も特にうるさくならないので、一般道のままで大きくする必要のないステレオのボリューム。ルームミラーを見なければ、後ろにストマジを積んだトランポツーリングであることも忘れてしまいそうだ。
 ただ・・・求めていたのはこんな快適な旅ではなかった。家族を乗せてのドライブなら、この快適さは大きな武器になる。だけど、一人で走るためだけには、こんな楽な空間は必要じゃない。意味のないことだとしても、もっと悪戦苦闘したかったのだ。
 自分の旅は、50ccのスクーターから始まった。その時に感じた楽しさを、今でも追い求めている。だから、ただ速いだけのオンロードバイクよりも、どこへでも入っていけるオフロードバイクが好きだし、車やバイクで長距離を飛ばすのが普通になった今でも、遅い原付で走ることが大好きだ。時間が無くてトランポツーリングにはなったが、原付ツーリングの不自由さにそのまま屋根を付けたような、軽自動車での長距離ドライブがしてみたかった。朝早く出発しないと夜までに着けない。でも、そうやって時間をかけてゆっくり、キョロキョロしながら走るのが楽しい。やりたかったのは、自分の部屋ごと移動していくような旅ではなかったのに。準備が出来なかったからとはいえ、ワゴンRが使えなかったのは本当に残念。
 岡山を抜ければ、いよいよ広島県へと入っていく。今日の目的地、尾道はもうすぐそこだ。
 ・・・と思ったのも束の間。岡山JCTを少し過ぎたあたりで、エンプティランプが点灯してしまった。
 これが唯一の弱点。フォード製のV6 2.5リッターDOHCは、燃費がかなり悪い。高速走行で8〜10km/L、町中だと4km台も珍しくない。60Lのタンクで、500km走らせるなんて簡単に出来るはずがない。だから、途中のSAで入れるつもりだったのだが。
 タンクの小さなスクーターの原付ツーリストにとって、GSにこだわるなんて自殺行為。だからGSなんてなんでも良かった。バイクは今でもそうだ。が、車はなんとなく1社に絞ってしまっている。妻がそうしていたことと、たまたま近くに出来たセルフのGSがそれだったため。しかし、その会社が途中のSAには無かったのだ。エンプティランプが点く前に、後半のSAはすべて寄って確かめてみたのだが、全部違う会社だった。どうやら、それ以前に通り過ぎてきた名神のSAにあったらしいが。
 そのまま高速走行は危険なので、倉敷ICでひとまず一般道へと降りる。目当てのGSを・・・探すとは言わないか?DVDナビですべて調べることが出来るのだから。あたりまえながらインター降りてすぐに発見。トリップ456kmで給油53リッター・・・
 そのままR2を走っていこうと思っていたのだが、渋滞がひどかったので、あとわずかな距離を再び高速移動することに。日曜日だというのに、夕方になっても山陽道はほとんど渋滞する気配が無い。いつもこうなのだろうか? 
 さて、あとは1日目をどこで終えるか。
 福山から少し南下、海沿いに出る手前に、「みろくの里」というアミューズ・パークがある。そこに、神勝寺温泉という日帰り温泉があるようだ。民家から少し離れた山の上、温泉があり、適当な空き地があるところ・・・行ってみると、だいたい自分の思った通りの場所だったので、この近辺で一夜を過ごす事に決めた。温泉で汗を流した後、「尾道ラーメン」の文字に惹かれて通り沿いの小さなラーメン屋で夕食。あとはコンビニでビールと朝ご飯を仕入れて・・・
 
 6/3。2日目の朝を、神勝寺温泉近くの空き地で迎えた。
 テント泊のつもりだったが、結局MPVのラゲッジに寝ていた。広いMPVも、ストマジを積んだままでは助手席のリクライニングもままならない。だからこその外寝装備だったのだが、テントを張るのとストマジをおろすのではどっちが楽?逆にテントの片付けとストマジを積むのでは?・・・テントを使ったら家に帰ったあと、掃除もしておかなきゃいけないし、考えてみればストマジの積み卸しなんて大した手間ではない。
 結果的に、車中泊にしたのは正解だった。「広島の今夜の天気、局地的に大雨の恐れ」という、昨日夕方の天気予報が大当たりで、真夜中に凄まじい雷雨になったのだ。安物のテントでは耐えられたかどうか。
 昨夜の大雨が嘘のように晴れ上がった空の下、再びストマジを積んで移動開始。
 尾道まではまだ少し距離を残していたことと、月曜朝の通勤渋滞にかかってしまったこともあり、8時頃にようやく尾道駅周辺に到着した。駅に来たのは、MPVを駐車場に預けておくため。駅から一番遠い駐車場を選んだので、屋根付き、管理人常駐で1時間160円という値段だった。
 駐車場に入れる前に、ストマジをMPVから降ろす。やはりというか、物珍しそうに近所の人が寄ってきた。「どこから来たんだ?」とお約束の質問。「なんで前のフェンダーが無いの?」ってそれはほっといて(^^;;;「若いときしか出来ないからねえ」って、そんなに若くもないんですけど・・・月曜日の朝っぱらからバイクに乗ろうとしてる奴が、妻子持ちの社会人だとは思えんだろうが。
 服装を整え、最低限の荷物を詰め込んだヒップバッグとヘルメットを持ってMPVを降りる。いよいよここからメインイベント、ストマジでのツーリングが始まるのだ。
 しまなみ海道は、尾道駅のすぐそばから始まっている。一応自動車専用道路の部分はR2のバイパスから繋がっているのだが。MPVを置いた駐車場から東に走るとすぐに、向島に渡る尾道大橋が見えてきた。
 上を走る新尾道大橋は自動車専用道路だが、尾道大橋は自転車も通れる一般の有料道路。原付は自転車と同じく10円なり。
 しまなみ海道としては、新尾道大橋を渡る自動車専用道路が正当か。125cc未満のバイクを持ち込んで何の意味がある?それは、ここから先の橋にあるのだ。
 向島に渡ると、「しまなみ海道」の標識が出てくる。だが、それに従ってはいけない。今日のストマジは80km/h巡航も不可能ではないオートバイではなく、あくまでも原動機付自転車なのだ。ひたすら自転車道の標識を頼りに進む。
 多少大回りとなる海岸沿いを走っていくと、2つ目の橋、因島大橋が見えてきた。立派なつり橋だが、これも自動車専用道路。原付は?
 自転車道の標識に従って因島大橋に近づくと、自転車・原付・歩行者専用の入り口が。そう、これがしまなみ海道の、他の本四間ルートにはない特徴。自動車専用道路としての橋に、自転車道が併設されているのだ。これにより、原付の自走で本四間を渡れる唯一のルートとなっている。
 因島大橋の自転車道は、自動車道の下につり下げられていた。橋脚の間を抜けていく、30km/h制限の細い道。揺れたりはしないが、大型トラックが上を通るとかなり大きな音がする。
 一応これも有料道路、料金は50円なり。途中に賽銭箱のような無人の料金所が設けられていて、自分で料金を投げ込む。一応監視カメラがあるが、入れるフリだけでもお咎めは無さそう?自分はもちろん払ったが、地元の人はどれぐらい払わないで通り過ぎることか?
 生活道路としての役割もあっての自転車道。しかしやはり観光客目当てが大きいのか、橋の近辺にはいくつかキャンプ場が整備されていた。常に波の穏やかな瀬戸内ならでは、すぐ横に小さな砂浜のある絶好のテントサイト。自動車がまったく入れない場所に造られているところも。ちなみに見た所は全部タダだった。自転車とかで何日もかけて、のんびり島巡りするのに良さそうだ。
 最近、某アニメの影響で有名になりつつある、本因坊秀作の碑がある因島。特に立ち止まることもなく、次の生口橋へ。
 生口橋からは、自動車道の横に造られた原付専用道となる。自転車/歩行者は反対車線側で別々に。因島大橋のような檻の中ではないので開放的だが、この幅で対向車とのすれ違いがあるので、下手にペースを上げると恐い思いをすることも。おとなしく制限速度を守ったほうが良いようだ。
 3つ目の島、生口島へ。有料の自動車専用道路は最短距離で次の多々良大橋に向かうが、自転車道は最も大回りなルートを通っていく。瀬戸内の島々を眺めながらのんびり走る海岸線、気分が悪いはずはないのだが。
 多々良大橋に向かう途中、瀬戸田町役場前で小休止。公衆トイレの他、観光案内所などもある。
 尾道を出てから、ここまででようやく40kmぐらい。しかし時間はすでに2時間近く経過・・・何度も写真を撮りながらではあるが、特に休憩も取らずに来た割にはペースが良くない。自転車道を通ってるせいなのだろうが、平均20km/hは正に自転車並みのペースだ。
 少しは先を急いだ方が・・・と思ったところ。「平山郁夫美術館」なるものを発見。知らなかったのだが、この瀬戸田町の生まれなのだそうだ。長居は出来ないが、せっかくだから少し覗いていこうかと。平日、開館直後で誰もいない館内に、場違いなワークブーツの靴音が響く・・・
 美術館には、おなじみのヨーロッパやシルクロードを描いた風景画の他に、しまなみ海道を描いたものが多く展示されていた。妻への土産に、何枚か絵はがきも購入。
 しまなみ海道を描いたものの中に、次の多々良大橋の橋脚塔の天辺から見下ろして描かれた絵があった。実際通る時に見上げてみても、いったい何十mあるのか・・・第一どうやって上まで上るのか?
 さて、ようやく半分過ぎただけのしまなみ海道。もちろんこの道を走ることだけが第一の目的だったから、この先どこまで行かなければ、というものは別に無い。今日の、ストマジで最終的に到達すべき場所は、あくまでも尾道に置いてきたMPVなのだ。とりあえずしまなみ海道は走破するとしても、あとはどこまで行って引き返すか、である。
 四国に行くのは初めてではない。昔、XLR-BAJAに乗っていた頃に、数日間かけて走ったことがある。しかし、実はこの時、瀬戸内側は一切走らなかったのだ。フェリーで小松島から上陸、その後室戸岬、四万十川、足摺岬と巡り、佐田岬も先端まで歩いたりした。が、そこから剣山スーパー林道を目指して山間部に入って行ってしまったので、道後温泉のある松山でさえ行かなかった。
 昔行った桂浜と同様、超観光地化しているであろう道後温泉に行かねばならない理由など無いが、当面の目的地には都合が良さそうだ。有名な本館を写真に収めるだけでも良いだろう。
 今日の出発前に、MPVのナビで道後温泉までのルートを計算したところ、尾道からおよそ100kmという距離だった。100kmなら3時間ぐらいか?昼までには松山に着けるだろう、と思っていた。だけど、思った以上にペースの上がらないしまなみ海道。急がねば、夕方までにもMPVのところに帰り着けなくなってしまう。
 海岸線の風景を眺めつつ、少しペースを上げて・・・と思っても、ずっと広く走りやすい道が続くわけではない。げ!道がない!・・・なんてことも。
 橋から橋をストレートに繋いでいる自動車道とは違って、自転車道からは各橋へのアプローチもかなり面倒なことが多い。橋がかなり高いところに架かっているので、真下まで来てもそこから更に細いワインディングを上らなければいけないのだ。しかもそれは歩行者も通る自転車道。注意してゆっくり走らねばならない。これ以上ペースは上げられないのだ。
 余談だけど、多々良大橋の途中からはもう愛媛県。愛媛といえば蜜柑。道の周りに見える山の斜面は、そのほとんどが蜜柑畑らしい。で、どの畑でもその蜜柑の木の間に、レールが敷設されている。作業用のトロッコらしいのだけど、急斜面で木を縫うようにクネクネ曲がるトロッコ、おもしろそうだなぁと・・・
 大三島から大三島橋を渡り、「伯方の塩」で名前だけは知れている小さな伯方島へ。伯方・大島大橋で、最後の大島へ。今までのような海岸線クネクネではなく、R317で島の真ん中を越えていくと、いよいよしまなみ海道最後の橋、来島海峡大橋が見えてきた。
 地図上でも明らかに違いがわかるが、今までの橋とは比べものにならない長さ。橋に近付くと、後半カーブしながら海峡を越えていく全貌が見渡せる。橋へのアプローチも、まるで高速のインター道路のミニチュア風。スケールが大きい。
 少し時間に追われていたため、後半は余裕を持って楽しめなかったが、最後の橋ぐらいはまたのんびりと景色を眺めながら。来島海峡大橋からは、見える景色も今までとはスケールの大きさが違う。小さな島々、無数にある小さな灯台、向こうに見える四国の大地。無人島らしき島の綺麗な砂浜に船が1隻・・・なかなか楽しい風景が展開されている。
 しまなみ海道は、もちろん中型以上のオートバイや、車でも通ることが出来る。ただ走り抜けるだけならば、その方が快適なツーリングが出来るだろう。しかし原付や自転車は遅いだけでなく、車などが駐停車禁止となっている橋の上で、のんびり停まって景色を眺めたり写真を撮ったりすることが出来るのだ。瀬戸内の風景を楽しみながら走りたいなら、絶対に原付の方が良い。今回は時間が無くて、ほとんど島々の散策が出来なかったので、いつかまた、もっと余裕を持ってツーリングしてみたいルートである。
 来島海峡大橋の料金所は、橋の真ん中辺りに造られている。ここも同様に無人の賽銭箱方式(?)、一応ここは詰め所らしきものが造られていたが。それにしても、今までの橋が50円か100円だったのに、ここだけ妙に高くて200円なのだ。途中で出ると100円らしいが・・・?
 ”途中”とは、料金所の真下に馬島という島があるのだ。料金所から、エレベーターを使って島に降りることが出来る。意味はないが、とりあえず乗ってみる・・・エレベーターはストマジだと中で向きを変えれるぐらい広かった。125cc以下の原付とは言っても、XLRやDTだって通ることが出来るのだから、このぐらいの広さは必要なのだろう。
 来島海峡大橋を渡りきり、愛媛県今治市へ。原付の自走で、本州から四国の地へと足を踏み入れたのだ。
 今治市に入ったところで、時刻は12時半頃。ここまで85kmぐらい、残りの距離からすれば、なんとか昼時に松山に入ることが出来そうだ。
 しかし、R196を松山方面に走り初めてすぐに、ガードレール上の小さな表示が目に入った。「松山まで45km」・・・計算が合わない?
 考えてみれば、ごく当たり前のことだった。MPVのナビが算出した道後温泉までのルートは、自動車専用道路を通る最短距離である。クネクネ走る自転車道が、同じ距離のはずはなかった。時間が掛かって当然だ。松山まで45km、まだ1時間以上掛かる?道後温泉までは更にどれだけ?
 松山で昼食、という当初の予定は諦め、途中のコンビニで食料調達。R196が再び気持ちのいい海岸線に出て、北条市に入ったあたりで、堤防に腰掛けて昼食タイム。海を眺めつつ、この先の予定を考える。
 一応もう松山まで30kmも無い。行けなくはないが、行ってどうするのか?ということもあるし、帰りの問題もある。正直な話、しまなみ海道を引き返したいとは思えなかった。のんびり散策するのは楽しい道だが、決して日帰りで往復しようと思えるような快適なツーリングコースではないのだ。
 考えた末、ここから引き返すことに決めた。”ここまで”という、明確な到達の地ではないのが残念だが、綺麗な海をボーっと眺めながらおにぎりを食べていて、なんとなく満足してしまった。旅の終わりなんて、そんなものだと思う。
 今治まで、R196を戻る。そこからはしかし、しまなみ海道へは行かない。波方町から広島県竹原市へと渡る、中四国フェリーを使うのだ。
 フェリーを使うルートはもう1つ、松山から呉に渡る方法もあった。予定通り道後温泉に行くのなら、松山からすぐにフェリーに乗ってしまえばいい。だけど、呉から尾道までは75km以上ある。フェリーの所要時間、そして更に100km以上走る必要があると考えると、とても原付では強行する気にはなれなかった。
 わずか数十km走っただけで四国を後にする。悔いはない、もともと四国はオプションのようなものだ。とりあえずしまなみ海道の原付道は走破した。今回はここまでで良しとしよう。四国を走ることも含めて、もっとしまなみ海道を楽しむなら、もっと余裕のある日程で。いつになるか見当もつかないが、それはまたの機会に。
 わずか1時間余りの航海で、午後3時半過ぎには竹原港に着いた。陸走で4時間以上も掛かってしまったのが馬鹿みたいだ。車や125cc以上のオートバイにとっては、所要時間も値段的にもしまなみ海道よりフェリーの方が上。平日では、しまなみ海道を通る車をほとんど見なかったのも納得。あくまでも”ゆっくり楽しむ”ルート。
 尾道までは約40km、遅くとも5時ぐらいまでにはMPVのもとに帰ることが出来るだろう。ストマジのツーリングは終わり、再び快適な移動が始まる。
 もう1日休みがある、帰るのは明日でいい。さて、今日はどこまで行こうか?明日はどこを走って帰ろうか?
写真・文 : 河村 敬

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