冬と春の境界線に。



年末年始の忙しさからも

それなりに開放したこの季節。

夜勤も終わって間も無いのに

ひたすら高速道路を走る軽自動車が1台。

そこ居るのは、KSRを積みこんで

何故か東北に向かおうとしている私の姿。

昨年、「KSR新潟往復」での屈強もあるのに

更に北上してさらなるモノを得ようとする。

いつでも2輪と共に暮らし、日々を過ごす。

たとえ自動車があったとしても、それを変える事は無い。


闇夜の国道を突き進み、明け方に山形まで入る。

夜が明ける前に深い眠りに着く。

数時間ほど仮眠の後、いよいよ冬の世界に飛びこんでいく。

今回の目的地は肘折温泉郷。

この時期はおそらく雪深い地域だという事を想定し、

その情景と温泉の両方を堪能しようと言う訳だ。

立川町から国道47号を経由し、国道458号に入る。

最上川沿線から外れ、山の奥へと入っていく。

天気は朝から雨模様。

この時期にしては珍しく、風が暖かい。


奇妙な感じを体で覚えていく。

出発時間が遅かったことも有り、

昼食は国道沿線に有る食堂で済ませてしまう。

目的地まではまだ20kmほどの道のりがある。

国道345号は、段々と標高を上げていく。

観光客らしき姿も特に見受けられず、どことなく寂しさも感じる。

時折抜いていく路線バスは、何事も無く追い越していく。

やがて寒河江との分岐点に来る。

しかし寒河江への道は無い。冬は厚い雪の中に埋もれている。

ようやく肘折温泉郷の姿が見えてくる。


雪の山々に囲まれた中に広がる温泉郷。

いつもとはちょっと違う風景が、

私の好奇心を幾度と無く煽ってくる。

地図と記憶を頼りに、中心部まで進んでいく。

温泉街は不気味な程ひっそりとしている。

4年前に行った公衆浴場は開いていないようなので、

ちょっと離れた村営浴場「肘折いでゆ館」に向かう。

温泉街にちょっと不似合いな程大きな施設。

でも、最上階から望む温泉郷と言うのも、悪くは無い。


ゆっくりと温泉につかりながら、遠くの景色を望む。

確かこの奥に黄金温泉という場所があったことを思い出す。

そこまでの道はつながっている様子。

それではとちょっと急いで着替えて向かうことにした。

肘折から約2km程離れた場所に有るのが黄金温泉郷。

そして同じ村営の「カルデラ温泉館」に到着。

先ほどとは違って古風な感じのする建物。

浴室の手前に飲用の炭酸水がある。

誰もいない浴場、天気は悪いけれど絶妙な雰囲気が楽しい。


温泉からあがり外へ出ると、雨が激しく降っている。

折角体も温まったのに・・・と思うけれども、

それが2輪ゆえの辛い所でもある。

手足に隙間のないようにしっかり着込んで出発。

雪の壁が周囲の景色を消すほど積もっている。

雨の影響もあってか場所によっては

崩れかかっている所も有る。

「雪崩注意」なんて看板がちょっと寒々しい感じさえ受ける。

ちょっと緊張した感じで下の集落まで下っていく。


翌日、相変わらず空模様に変化はない。

どんよりとした曇り空が一帯を覆っている。

運行数の乏しい陸羽西線には、

早朝の雪がうっすらと積もっている。

複雑な心境の中、身支度を整えて再び出発する。

晴れを期待したいところだが、今は小雪が舞う。

まだ春に届くまでには時間がかかるようだ。

国道47を酒田方面に向かう。

冬と春の知らせを併せ持つ場所に。


酒田港に近い最上川の河川沿いに

白鳥飛来地として知られる「スワンパーク」がある。

今の季節はちょうど白鳥たちが飛び去っていく時期。

何かを見計らっているのか、この地に留まっている白鳥もいる。

やがて東北に、梅の花が咲こうとする頃には

再び長い旅の中へと向かっているのだろうか。

また初冬にこの場所で出遭えることを夢見て帰路につく。

東北にはまだ深い奥行きがある。

全てを引き出すまでに至らなくても、

その一端を知ることは自分にとっても大きい意味があると思う。

文・写真 : 山本賢史


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