第25話 ヤツの住む山へ

 冬はスキーに限る。

 近頃はスノーボードにそのフィールドを奪われつつあった。スキーが自動車ならスノーボードがバイクだとか。


 冗談じゃない。


 オフロードバイクを愛する私たちにとっては、スキーこそがバイクに通じるスポーツなのだ(断言)
 そんなスキーのメッカにこもっているヤツがいる。

 何やかんやと言ったところで、年々スキーに行く日数が少なくなってきている。いつまでも有ると思うな親と金、それと体力・・・情熱もそれに入るかね。年間30日も雪の上で暮らした日も今は何処、近頃はお手軽にすませることが多くなった。
 しかし。そんな中でも年に一度は行っておきたい場所。それが志賀高原。

 そんな志賀高原に、ヤツはいる。事情なんてどうでも良い。
 ちょっと行ってみようか・・・


 この冬は仕事が集中してしまって、なかなか休むことが出来なかった。いいかげんストレスもたまりきったある週末。とうとうブチ切れて土日連休を取ってしまった。
 車がスポーツセダンに変わったことで車中泊は出来なくなった。それに4時間を超えてスキーを続ける体力もなくなって来ているのだから、夜行での山行きなど今は昔、朝からゆっくり出かけてゆっくり滑るのがよかろうかと。
 いろいろ行き先を考えてみたが、実際9割方決めていたのは間違いない。

 そう、ヤツの住む山へ。

 時は2月の連休。業界では年間で一番ゲレンデが混雑する日といわれている。そのわりには順調に進んだ高速道路が停滞したのは、中野まであと数キロという地点。1時間近く停滞したあと、いよいよ山へ向けて走ろうと言うところ。
 しかし、ここから山へ、というところになってまた停滞する。長野県内に入ってから少しながら雪も降り続いており、それが傷害になっているやも知れぬ。しばし待っては見たモノの、いっこうに進む気配がない。時間ももったいなく、今日の志賀高原はあきらめて北志賀エリアでお茶を濁す。志賀は明日だ。

 街でしこたま飲んだ翌朝。
 インターネット上には里谷多英のモーグル銅メダルのニュースで持ちきりだった。

 モーグル。これこそがオフロードバイクともっとも共通点の多いスポーツではないか。

 上林のゲート跡で検問。「4輪駆動の4輪スタッドレスですか?」その通り。チェーンも持ってまっせ。
 晴れて通行を許可された我が愛車は雪の峠を志賀高原へ向かう。

 そうだ。ヤツの住む山へ。

 いつものダイヤモンドゲレンデ下駐車場に車を停めれば、そこには知り合いが居た(汗)
 リフトが動き出すのを待ってゲレンデへ出る。リフト券は、半日券をチョイスした。タイムリミットは1時まで。
 久々に焼額〜奥志賀エリアを中心に攻める。2月の連休というのに、この人の少なさはいったい何なんだ。ここにも不況の影響は出てきているのだろうか・・・
 昼が近づいた。昼食の場所は、決めてある。

 そうさ、ヤツの居る、あの店へ行こう。
 会える可能性は少なかった。ほとんど話のネタ程度のモノだ。以前(といってもすでに10年以上前だが)はカーペット敷きにバイキング形式だったその店は、洒落た佇まいに変化していた。
 とりあえず飯でも喰うか。ゲレンデ食堂の王道は、カレーだ。


 そんなとき。


 見覚えのある顔が!
 ヤツは今、そこに居た。

 にわかに意気投合して、少し滑ろうかということになった。
 しかし、俺のリフト券はもう30分ほどで期限が切れる。こんなことなら一日券を確保しておくんだった。



 毎日滑っているヤツと、今年はイマイチ行けてない俺の滑りは比べるまでもなかった。しかし、今日の朝からどうにも乗れてなかった左足にうまく乗れたのは、やつを追いかけたことで、いらぬことを考えずに滑れたためだろうか。この日、というより今年最高の滑りがそこにあった。
 13時2分(汗)に最後のゲートを通って山上へ。もう帰らなくてはならない。わずか30分、本数にしてわずか4本滑っただけだが、なぜにこんなに愉しいのだろう・・・

 ネットを通じたバイク仲間であるはずのヤツと、スキーを使ってのわずか30分のオフ会。
 そんな時間もオツなもんだね・・・
写真 : 藤原尚之  文 : 河村 格

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