第23話 林道探索

 尻が痛い。

 突然なんだ、という感じだが、このバイクに乗り始めて以来、ずっとつきまとっている悩みがこれなのである。
 欧州生まれのエンデューロレーサー、どっかりシートに座って長距離を走ることなど全く考えられていないのだから当たり前だが、固く細いシートは200kmを越える走行には苦痛を伴う。それが行動範囲を狭めることになり、F650を手に入れた後はもっぱら近場の山を走るだけのものになってしまっている。
 それではもったいない、ということで、シートの張り替えを行うことにした。柔らかく広めに作り替え、1日の行動に耐えうるものとするために。

 「山の探索に行きませんか?」

 そんな誘いがあった。
 シートの改造方針を定めるために少し走ろうか、と思っていたところだったので行ってみることに。

 2ヶ月前のナイトランでバッテリー上がりを起こしたフサベルは、その後放置していたツケが回って完全にバッテリーが死んでいた。ポータブルバッテリーをつないでもエンジンが始動できず、インプレッサの強力なバッテリーの助けを借りる。キックでかけようなどとは思ってみても実行する気にはならなかった。
 しばらく近くを走り回って電圧上昇を試みるが、ブレーキかけると消えるメーター、息つくエンジン・・・これはダメだ。やむなく今年2個目のバッテリーを購入する。夜も遅く、交換は探索当日の朝から行うことに。

 早起きしてバッテリーを交換する。さすがに慣れたもの(慣れたくないが)で、30分もかからず。時間があるので、ここしばらく調子を崩していたサスペンションをセッティングし直す。ダンパーのセッティングを工場出荷状態に戻した上で、リヤサスのサグ出しを試みる。ホイールトラベル320mmだから100mm程度でいいか・・・90mm弱だったので10mmほど落とす。足つきも若干よくなるし跳ねにくくもなるだろうか。



 途中何度か雨の跡が見られたが、直接的には影響なく、集合地点へ到着。
 第一集合地点まではかなり遠回りになってしまい、1時間ほど余分に走らなければならないので、途中の地点で合流させてもらっている。



 ほどなく今日の探索メンバーが現れた。
 1、2、3・・・・おいおい、9台も来たぞ・・・自分を含めて10台はかなりの大人数だ。これでは怪しいところへ探索に行くのは難しそうなので、比較的ルートのはっきりした山に行き先を決める。



 まあ、皆走り慣れた山でもあるもので・・・
 どちらかと言えば今回のルートは私にとっては歓迎だ。やや大きく重いバイクに乗る身としては、あまり荒れたところというのも避けたいところだ。比較的緩やかで飛ばし頃のダートでこのところの運動不足解消にちょうど良い程度の快適さ。
 今朝方リセッティングしたサスが若干強い、と感じたので、前後とも圧側を2ノッチ下げる。これだけでほぼ収まってしまった。バイクはノーマルが一番、と言われるが、それが間違いではないことがよく理解できる。リヤの堅さが気になって初期からずっともっとも弱くしていたダンパー、今日はサグ出しによって柔らかくなったバネの効果で、これまでより遙かに固く締めたダンパーでもその堅さを感じなかった。

 しかし・・・



 フロントフォーク右側が濡れているのに気が付いた。水たまりを走ったためか?いや、左側は濡れては居ない。
 指で触れてみると、それはなんとオイル。

 黙視で確認したら、フォークシールが傷んでいるようだ。フォークブーツが無いので塵埃をかみやすいのかも知れないが、摺動させていないと油が付かないわけで、劣化するのも早くなる。油に強いニトリルゴムは反面水に弱いので、雨ざらしでしばらく放置してしまったことが原因でもあるだろう。



 峠のゲートは開いていた。軽自動車なども通るこの林道は別に閉鎖されているわけではない。そうは言っても所詮我々は「遊び」として走っているわけなので、そうした仕事の人々のじゃまにはならないようにしたい。
 秋のシンボル・ススキの穂が目立つようになってきた。ジャケットを着て走ってもあまり汗をかかなくなった。今が一番いい時期。今年は暑かっただけに秋の紅葉が楽しみだが、それを過ぎると寒い冬がやってきてこの一帯も雪に埋もれる。



 熊なんてもっと北の方だけかと思っていたが、当地でも確認されているらしい。熊なんかに追われた場合、果たしてダート上でバイクのスピードで逃げ切れるものかどうか・・・もうすぐ秋も深まってくる。冬眠を控えた動物が頻繁に現れるようだ。

 そして冬眠前に我々も頻繁に山に通うことになる。



 行き止まりだが長いダートに向かう。この道がどこまで延びたのかが知りたくて。
 だんだん疲れてきたので、終端部の探索には元気なA氏が一人で向かう。俺?いやあ・・・この林道でUターンの際に腕がつってえらいめにあった経験があって、どうも気が進まなかったの(言い訳)



 まだ日は高く、時間はあった。もう一本林道へ行こう、という話もあった。
 が、さきほどから背中に痛みを感じていたことから、これ以上の走行は楽しくないだろうと考え、辞退することに。結果的に皆もその後の走行をキャンセルして帰路についたのはちょっと悪かったかな?

 実際問題、探索なんて行為が表立っていいものか、という点では、はっきり言って良いことではない、という感が強い。一般に周知された道路ならば探索するまでもないのだから、一般的でないところを走ることが多くなるからだ。本当に「探索」したのなら、こんなところに発表はしませんよ。


 自分たちだけの秘密の場所、てのは誰にも必要だから、ね・・・

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