第22話 再び走り出す日

 箱から出したばかりの真新しいヘルメットはXLサイズ。

 シールドに貼られた保護シートを剥がし、頬パッドを厚手のものに換える。
 作業ズボン(チノパンと言え --;)をはき、ライディングシューズに紐を通す。
 ジャケットは要らないか。Tシャツにウィンドブレーカを腰に巻き、唯一穴の開いていないグローブを手に取りしばし考慮。

 縁起は良くないが、仕方ないな・・・


 ほぼ一ヶ月間、手を降れることも無かった。
 部品の注文はしてあった(金まで払ってあった)が、取りに行くこともなく。

 だけど今日。
 過去、自分を林道へ・全国へと駆り立てたとある雑誌の発売を機に、もう一度初心に帰ろうか・・・と。

 とりあえず走らせるための部品は手に入った。
 相変わらず整備性の良くない車体に業を煮やしながら、ひとつひとつ部品を外していく。
 破壊したメーターギヤボックスを交換、車輪を回してメーターの動作を確認。メーターパネルもぐらついているが、落ちることはないのでそのまま。
 ウィンカーを取り付けようとカウルの中を覗けば、いくつも外れたコネクタ。そうか、時計が動かなくなったのは抜けただけか・・・
 よく見ると右に少し歪んだカウル(左フルロックで当るんだな)の傷を、カッターナイフと400番のサンドペーパーで均す。


 走らせてみるか・・・


 新品のTourCrossStormを被る。シールド付きのメットなんて何年ぶりか。いかにも大きいXLサイズを選んだのは・・・
 傷つけて使えなくなったヘルメットが、頭に馴染んだのは3年目。毎月毎週、西へ東へ走り回った頃からの相棒。
 しかし今、頭に馴染むまで待つわけには行かない。

 別に終幕を急いでいるわけではなく。
 それとて以前のようには走り続けられないことも解り始めている。
 走る目的を見失い始めていた若い頃のように。


 狭い路地で前から来た車。
 リヤブレーキを思いっきり踏んづけた自分に思わず苦笑。
 そういえば、自動車学校ではリヤブレーキを一瞬先に踏む、と教えられた。止めることには自信を持っていた自分は、ほとんど聞いてなかったけど(笑)
「握り転け」なんて初心者の冒すこと、などと思っていた。
 GSよりFunduroに惚れて抑えた最終型、今新型のABSにちょっとジェラシー。
 そんな今日この頃。自信が慢心だったことに気づいたこの頃。

 たった1ヶ月弱。
 もっと長い間乗らなかったことが当たり前のように何度もある。
 なのに、「ブランク」を感じている自分がいるのは何故?


 速度を上げる。
 夕日を背にした所為で、シールドに写り込む眼鏡のシルエット。メーターが真上から右側に傾く頃には少し揺れたバイザー。
 左にウィンカーを出し、点いていることを確認しながら家への道をたどる。

 明日の天気が持つのならば、走りに行こう。
 見失っていた目的をひとつ見つけたあの頃のように、もう一度走り出そうか。


 再び走り出す日・・・

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