原付3台温泉ツーリング

 半分は冗談のつもりだった。「じゃあ、みんな原付で温泉にでも行こうか?」まさか、喜んで話に乗ってくるとは・・・

 事の発端はある日、レースの帰り、打ち上げの飲み屋にて。ヘルパーで来てくれている女子大生のエリちゃんは、普通免許しかないから愛車はスーパーカブ。中型免許を取得してアメリカンに乗ることを夢見ている彼女だが、50ccのカブもかなりお気に入りで、ツーリングとか行ってみたいな〜と言う。じゃあ・・・てなわけで、女の子を交えて一泊の温泉ツーリングに出掛けることになったのだ。
 当初の予定では男3人+エリちゃんだったのだが、一人が都合で参加できなくなった。でも彼女は行きたいと言う。結局、私と職場の同僚でもある池戸、そしてエリちゃんの3人でのツーリングとなった。大学生は夏休みというものがあるので、7月に入れば平日でも構わない。遅い原付で行く以上、出来るだけ車の少ない日を選びたいので、日程は7/10(月)・11(火)に決定。

 10日、朝7時頃出発。行き先は、静岡県の寸又峡温泉だ。片道200km圏でみた結果、途中の道も考慮するとここが最適と考えた。いや、ホントは白骨温泉がいいと思ったんだけど・・・(理由はナイショ^^;)

 マシンはバラバラ。私はもう10年近くの相棒、初期型モンキーバハ「こばは号」。池戸は珍しい逆輸入のハンターカブCT110「ザク」。実は池戸はこのツーリングの話が出たとき、原付を持っていなかった。「おまえは原付持ってないから来なくていいよ(笑)」といじめまくったら、意地になって中古を買いやがって・・・
 私のこばは号も2種登録はしてあるが実際は50cc。110ccのハンターカブではペースが合うわけはないのだが、とりあえずその巨大なキャリアと余裕のパワーを頼りにカッパなど嵩張る荷物はすべてお願いする。
 男2台は制限速度50kmなので、真ん中にエリちゃんを挟んで走れば、スピード違反とかも捕まる心配は少ないだろう。
 猿投グリーンロードを抜け、R153を足助へ。まだエリちゃんカブのペースがわからず、かなり抑えているので車が多いと走りにくい。国道に出てようやく車が少なくなり、原付でもなんとか楽しめる状況になった。
 まだ朝御飯を食べていなかったので、途中の喫茶店でモーニング。それで止まって初めて気がついたのだが、ハンターカブのエンジンオイルが漏れてる!スタンド周りにかなり流れてしまっているので特定しにくいが、どうやらシフトのシャフトあたりかららしい。前日まで何事も無く走っていた。原因は不明。しかし、考えてみたら有料道路の入り口でお金払う時、少し白煙が出てオイル臭かった・・・
 まだ引き返せる場所、少し悩んだが、カブ系エンジンの丈夫さを信じて強行することに。とりあえず途中でオイルを買って足すことにした。
 R153足助からR420へ。信号の無い快適な道なのだが、だらだらと登りの続くこの道は4st50には向かない。こばは号など、3速全開30キロなんて状態に陥ってしまう。カブも同じようなものだが、体重が私の3分の2以下しかないエリちゃんなので、間違いなく登りではカブの方が速い。
 R420からR257、県道32へと抜ける。名古屋から見るとほぼ真東になる寸又峡、出来る限り最短距離を走りたい。原付なら道の狭さはあまり関係ないので、仏坂峠を越えてR473へと抜けるつもりだった。ところが、峠部分の仏坂トンネルが工事中で通行止め。下の方には案内標識が無く、随分登ってから初めて気がついた。近辺に迂回路は無く、やむを得ず10kmほど北上して田口からR473へ。このせいで予定より30km近く余計に走ることになってしまった。

 遅い原付、遅れているからといってペースを上げることも出来ない。一応その辺は事前に考えて、10時間で200kmという計画だったのだが。
 山の中とはいえ、梅雨明け間近の快晴でかなり暑い。川沿いにバイクを止め、渓流に入ってしばらく休憩。水はもうそれほど冷たくなく、とても気持ちいい。予定より遅れているのに、結構長い時間を過ごしてしまった。

 広い道路に出たところでそれ以上ペースが上げれるわけでもないので、ひたすら計画通りの細い県道をつないで走る。真東に走るとは言っても、天竜スーパー林道などがある険しい山があり、秋葉山あたりまでは南下しなければならない。
 細かいワインディングが続き、喜んでいるのは男2人だけなのだが、エリちゃんも思った以上にうまい。私のように変な癖が無いためか、スムーズにコーナーを回っていく。ミニバイクレーサーである自分の腕を持ってしても、カブとモンキーの性能差を埋めるのが精一杯だった。たまにオーバーランしたり危なっかしいところもあるが、まあ後ろで見ていても怖いほどではなかった。
 この近辺は、スーパー林道だけでなく細かい林道が無数にある。普段のツーリングならば絶対に横道にそれてしまいそうなところ。今回は女の子が一緒とあって、魅力的なダートの入り口も見ない振り・・・
 秋葉山から気田川沿いをR362へと向かう。秋葉神社下社前でようやく昼食。時間はすでに午後2時、距離はまだ3分の1ほど残っている。さすがにエリちゃんは疲れた様子。午後5時ぐらいにはチェックインすると宿には伝えてあるのだが、さて何時に着くか・・・しかしこばは号はともかく、カブ2台のライトにはかなり不安がある。夜間走行にはならない程度に急がねば。
 細い山間部を抜け、R362はいよいよ大井川沿いに出た。あとはSLも走る線路沿いを北上していくのみ。
 ちょっと小休止でついでにハンターカブにオイル補給したところ、途中のバイク屋さんで500ccだけ売ってもらった4stオイルが全部入ってしまった。しかもキャップのゲージに届かない。最初の内は警戒して休憩ごとにチェックしていたのだが、エンジンの調子自体には変化が無いようなので油断していた。どうもかなりヤバイ状態。漏れたオイルが後輪にべっとり付着していた。
 再スタートしてすぐに見つけたバイク屋さんでオイル補給。少し見てもらったところ、やはりシフトのシールが抜けていたようだ。おそらくブローバイが詰まってるのでは?とのこと。クランクケース内部の圧が行き場を無くして、緩いシールを抜いてしまうらしい。とりあえずシールははめ直してもらったが、ブローバイはよくわからないとのこと。

 とりあえず故障個所、原因は特定できたようなので、ひとまず目的地を目指すことに。ここまで来てようやく「寸又峡XXkm]という表示が出始めた。残り20km、時間はすでに午後4時半。登りが続くので必然的にペースは落ちる。5時は無理だが30分遅れぐらいには着けるか?
 残り5kmの地点まで登りが続き、そこから一気に谷へと下っていく。登り切った所で景色を眺めようと停まったが、念のため見てみるとやはりシールが抜けていた。ここまで登りが続いていたのでエンジンの負荷が大きすぎたらしく、排気から白煙とイヤな臭いが出ている。もうはっきり言って限界。よくここまで保ったと言うべきか。
 幸いここからの5kmはほとんど下り。負荷を減らすため、エンジンを切ってニュートラルで下ることにした。もともと動力付きでも無しでもあまり変わらない。エンブレが使えなくなる程度のことだ。
 
 午後5時40分、予定よりは遅くなったが一応無事に寸又峡に到着した。
 宿は、ほぼ一番手前にある民宿「深山」。選んだポイントはただ安かったからといういい加減さだったけど、小綺麗で悪くない。
 お風呂はまあ普通だけど、お湯は間違いなく寸又峡温泉のもの。「美女づくりの湯」として有名な温泉は、石鹸を付けて体を洗うといつまでもぬるぬる感が拭えないほど。温泉街には他に400円で入れる露天風呂や、各旅館の湯をはしご出来る温泉手形なるものもあるのだが、それほど時間があるわけでもないし、最初からそんなつもりもなかった。せっかくの温泉だが、風呂が入れればいいというだけのいい加減な計画。
 お風呂から出てすぐ夕食。温泉と言えば浴衣でしょう!というわけでお約束のサービスショット・・・

 食堂にはこんなに泊まってんの?っていうぐらい人がいた。どうも地元のばあちゃん達が来ていたらしい。本当の泊まり客は他にご夫婦一組と男性一人だけだったようだ。ばあちゃん達はビール瓶片手にやってきて、飲めや歌えの大騒ぎ。食事はしし鍋や山菜の天ぷらなどなかなか美味しかったが、半ば無理矢理カラオケを歌わされたり、落ち着かない雰囲気だった。まあそれも良いか・・・
 
 食事が終わるとやることが無いので少し散歩に。しかし山中の秘湯、温泉街とはいえ大きな有名どころのようなスOリップとかの笑える施設も無い。「昔のパチンコ」という怪しい店があったけど、すでに閉まっていた。田舎なのだ、飲み屋などもすべて早い時間に閉まっていた。

 翌朝6時頃、あまりにも寒くて目が覚めた。窓を開ければ十分涼しかったのだけど、網戸があるのになぜか蚊が多くて、やむを得ず備え付けのエアコンをかけていたのだが、エアコンのある生活に縁のない池戸がタイマーをかけ忘れたらしい。エリちゃんも布団に潜っている。
 7時半から朝食。昨晩の夕食もそうだったが、お決まりの旅館メニューではなく、量も手頃で好感が持てる。値段的な条件で選んだだけだったが、十分納得のいくものだった。また機会があれば、是非利用したいと思う。

 9時前に宿を出発。そのまま帰った方が良さそうなものだが、今日は何時になってもいいんだ・・・と開き直って、「夢の吊り橋」を見に行くことにした。池戸とエリちゃんは初めて、私は寸又峡に来るのは3回目なのだが、吊り橋はかなり歩く必要があったのでまだ見たことがなかった。案内板によると片道2km、往復2時間のコース。2kmって1時間かかる?
 歩いてみて納得。吊り橋の向こうはかなりきつい階段の登りだった。素直に一方通行に従わず、吊り橋からまた戻った方が良かったのかも・・・
 それでもなんとか2時間はかからずに歩くことが出来た。土産物を仕入れ、少し休憩した後、11時過ぎにようやく名古屋へ向けて出発した。
 
 ハンターカブのトラブルは結局直していないため、少し走ったら本格的に調子が悪くなってきた。煙がすごい。このままで名古屋までは保ちそうにない。
 R362途中の道の駅で休憩中、行きつけのバイク屋(ハンターカブ買った店)に電話で聞いてみた。やはりブローバイの詰まりでは?とのこと。恥ずかしながら4stの構造はよくわかっていなかったのだが、考えてみたら2stの1次圧縮のようにピストン下にも圧縮は生じるのだから、その圧を抜く機構があるはずなのだ。ドレンホースがどこかに出ているはずなので、詰まってないかチェックしてみて下さい、とのこと。逆輸入車なのでマニュアルが無く、どこにあるか説明できないので自分で探せと・・・
 一応同系列のエンジンだからモンキーと一緒だろう、と見たところ、モンキーはケース後ろに出ている。じゃあハンターカブは?よくわからない。ケースの後ろにはホースは一切出てなくて、左の前に全て束ねてあるようだ。一本一本チェックしてみる。そしたら・・・出口がエンジンガードに挟まってる!
 ツーリングに出る前日、池戸は逆輸入車でハンドルロックの無いハンターカブにカブのロックを付けていた。ロックを付けるためにはエンジンガードを取り外さねばならなかったのだが、再度取り付ける際に挟んでしまったようだ。なんで今まで気が付かなかったの?っていうぐらいよくわかる場所だった。プライヤーで無理矢理引き抜いたら、メチャクチャ圧がかかってたらしく一気に熱気が吹き出した。これでようやく不安なく走ることが出来るようになったのだ。

 昨日寄ったバイク屋でオイルを入れてもらおうと思ったら、「葬式が入っちゃったから今日はもう閉店」と言われてしまったので、ガソリンスタンドで給油ついでにすることにした。
 今回トータルで440kmものツーリングになったのだが、給油は1日1回で良かった。3台とも4リットルのタンクだが、一番悪い110ccのハンターカブでも45km/L前後の燃費だった。こばは号は9年も乗っているが相変わらず65km/Lの高燃費。しかしエリちゃんカブはそれ以上で、なんと82km/Lだった。もちろんカタログデータには及ばないが、80kmも走れるのなら4リットルでも300km以上走れてしまう。普段の給油は月1回ぐらいというのも納得。
 
 ハンターカブのトラブルは無くなったので、快調に名古屋へと向かう。ほぼ同じルートを引き返すつもりだったが、仏坂が通れないことはわかっているので、地図を見ながら予定よりも南のルートを取って走る。
 もうそんな必要はなくなったのだが、昨日の最後にやった下り無動力走行がなかなか楽しかったので、結局帰り道の下りはほとんどエンジンを切っていた。早く帰るつもりなんてないな・・・

 1日目よりも多く私が先頭を走ったため、結果的にかなりペースを上げることが出来た。110ccで後ろを見ながらペースを作るより、同じ50ccの方が楽なのは当たり前。といっても下りでは80以上出るこばは号、全開にするわけにはいかない。上りでは逆に追いつかれるけど・・・
 R420〜R153へと快調に抜け、香嵐渓で最後の休憩。午後6時半、帰れるのは7時過ぎか?しかし疲れたぞ・・・  

文・写真 / 河村 敬


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