File16 ギヤ比を変える(1)

 一般向けに市販されているバイクは、様々なシチュエーションを考慮してあるので、オールマイティである反面、特殊な事情には合わないときもある。
 その逆のパターンで、特殊用途に限った作りのものもあり、それはそれで一般用途には厳しいと言う場合もある。

 もともと自動車などと比べて排気量の小さいバイクは、エンジンの馬力/トルクに限りがあるため、目的に合わせて最適な力が出せるように設計されているものだ。
 それは、回転数と速度の関係で作り出していることが多い。エンジンは数千回転〜1万回転以上/毎分回ることが出来るが、18inchのタイヤが時速80kmで走るのに必要な回転数は1000回転/毎分以下なので、内部のミッションとともに、駆動チェーンなどで減速している。
 たとえば、80km/h時に5000rpmとした場合、総減速比は5:1程度、ということだ。そのうちミッションなどで1〜1.5:1程度に減速が行われているのが普通で、残りはチェーンで減速する。

 タイヤ側のスプロケットの歯数をエンジン側のスプロケットの歯数で割ったのが減速比となる。通常は1:3〜4程度の範囲か。
 ここの速比を変えることで全体の減速比を変えることが出来る。それによって、走行速度に対するエンジン回転数を変えることが出来るわけだ。

 さて、ここでHusabergFE400Eのギヤ比を変えてみよう。
 この車両は元来EDレーサーであるため、減速比は非常に大きい(即ち速度に対する回転数は高め)ため、推進力が強大である反面、長時間の高速走行は苦手だ。スプロケットはF13T/R52Tで1:4となっている。
 これをもう少し緩和して、一般道での走行に余裕を持たせたい。

 ギヤ比を落とすには、Fを大きくするかRを小さくするかの2通りがある。
 現状が1:4なので、Fの1歯はRの4歯に相当する。細かく比を設定するにはRを弄るのが得策だが、大きく変更するならFが手っ取り早い。
 さらに、Rの変更には一度タイヤを外す必要があったり、チェーンのコマを繋いだり切ったりする必要が生じる。4コマ変われば60mmぐらい変わるわけだから。1コマなら15mm程度、それならばチェーン引きの範囲内だ。エンジン側は片持ち支持なので、スプロケットは容易に抜くことが出来る。

 汎用性の高い車両、人気の車両の場合、様々な部品メーカーから交換パーツが販売されている。スプロケットであればAFAM、Sunstar、Renthalなど。しかし、世界的に台数の少ない車両の場合、特注扱いになって納期/コストが高くなる。
 Husabergもご多分に漏れず標準品は販売されていない。そこでメーカーのパーツリストを調べたら、12〜16TまでのFスプロケットが揃えられていた。FE400の標準は13Tだが、FE501/600は15Tが採用されている。
 そこで、14Tとすることに決め、やや値段の張る(5200円)メーカー純正品を入手した。



 右側にチェーンラインのあるHusabergは比較的作業がしやすい。
 まずはスプロケットカバーを外して露出させるところから始まる。



 写真ではわかりにくいのですが、この車両の場合、スプロケットの抜け止めはCリングで固定されている。つまりこのリングをはずせば、スプロケットを抜き取ることが出来るわけで、交換にかかる労力は小さい。

 

 Cリングの取り外しには専用工具を使う。これはホームセンターなどで容易に入手できる。



 チェーンが張った状態ではスプロケットは抜けないので、チェーンを緩める。Rスプロケットからチェーンを落としてしまったほうが作業は楽になるので、チェーン引きを緩めてチェーンを落としてしまおう。



 こうして無事スプロケットを抜くことが出来た。
 このあとの作業は新しいスプロケットを取り付けてまったく逆の作業をしていくことになる。



 13Tと14Tを比べてみると、これぐらい大きさが違ってくる。
 それが即ち、減速比に結びついてくるわけだ。Fを大きくするということはエンジン一回転あたり後輪の回転する回数が多くなるわけだから、逆に言えば同じ速度で走った場合にはエンジン回転数が押さえられると言うことになる。


 まずは回転を下げる方向でのトライだったわけだが、逆に回転をあげるための交換も可能だ。
 ツアラー性の強いBMW F650の場合、(大きな声では言えないが)120km/hぐらいにならないと満足行く回転数にならない。なにぶん3000回転以下はまったく使い物にならないエンジンで、実用域は4500回転以上という代物だ。
 ドイツにしてもイタリアにしても、アウトバーンやアウトストラーダという高速道路の事を考えてあるというところか。

 そうなると、日本国内で使うには非常に不便になってくる。そこで、回転を高く保つためにギヤ比を低くしたい。
 BMWというと、シャフトドライブのイメージが強いが、このF650は一般的なチェーン駆動なので対応可能。また全世界での出荷量最大と言われる車両なので、部品も入手可能だ。
 ここではAFAM製のものを手に入れた。標準が15Tなので、14Tを選定。



 実戦向きなHusabergと違って、整備性はよくない。たとえばカバーひとつ外すにもいろいろなところに干渉したり。
 このあたり、国産車は実戦的なものが多い。特にホンダ、スズキの整備性、部品入手性は優れており、このことが世界周遊ライダーに好まれているところだろう。



 さあ外そう、と思ったら、なんと巨大なナット締め!
 2面幅30のナットでがっちり固定されていた。これはちょっと大変だぞ・・・


 ということで、F650は第二部に続く・・・

目次

inserted by FC2 system