海を渡る

 バイクというのは便利な乗り物だ。
 たいていのところは走れる。高速道路でも獣道でも。エンジン止めて押して歩けば、歩道だって入れる。

 が、海を渡ることだけは、走っていくわけにはなかなかいかない。水の上は走れないからね。
 近年は海峡にも多くの橋が架かった。四国方面などは3つのルートが確立されたほどだ。九州へは古くから橋とトンネルによって結ばれているし、列車に限られてはいるものの北海道へも青函トンネルがつづいている。

 脱線して青函トンネルを見てみると、ここは完全に電化されている。ここを走る列車は、すべて電車あるいは電気機関車によるものだ。それは、この長大な海底トンネルの換気が確保しにくいからで、それはすなわち自動車がここを走れる可能性は限りなく少ないということだ。
 陸上のトンネルでも、換気はかなり重要課題で、長大トンネルの走りである中央道恵那山トンネルでも換気のための施設が大きなウエイトを占めている。そしてここで培われた技術はその後のトンネル建設に活かされている。

 東京湾を渡る。

 川崎と木更津、どちらも工業地帯である・・・と小学校の社会科で習ったような。産業のあるところ交通は必要になる。
 ここにいま、「東京湾アクアライン」なる道路が出来ている。

 海を渡る。手段は橋かトンネル。
 途中に島などがあれば、橋を架けるのが一般的だ。しかし東京湾には島がない。1スパンで橋を架けられる距離ではもちろんない。トンネルには換気の問題がつきまとう。どうするか。

 東京湾アクアラインでは、トンネルと橋の両方を使うことにした。
 川崎側からは海底トンネルでアプローチ、木更津側からは橋をかける。そして、湾の中間に、人工島を設けたのだ。

 それが、「海ほたる」だ。

向こう岸が川崎

 長い海底トンネルから光が見えたところで海上に浮上する。湾の中央付近に忽然とあらわれた人工島にはパーキングエリアが設けられていて、開通当時はその混雑ぶりが評判になったものだ。時が経って当時ほどの異常な盛り上がりはないものの、やはり観光バスなどから吐き出される人・人・人・・・



 海の上で海の幸を食べる。もっともなこと・・・だが、考えてみればここは人工島、漁師所ではとうぜん、ない。ということは?ここで食べる海の幸は、東京(?)からはこばれているもの。なんか複雑だが、それでもこんなところで牛ステーキなどを食う輩もあまりいるはずはなく、レストラン街も海の幸を扱う店がほとんどだ。

 あさり丼セット

 ・・・ま、味は、こんなもんでしょう。観光地の味、です。

 さて、腹も膨れた。あとは橋を渡って木更津へ上陸だ。そのまま道は館山道に連結され、千葉方向、館山方向に続いている。


 海を渡る。

 現代はこうして走って行けるようになったところが増えた。しかし、これまでは船に頼ってきていた。それがあたりまえだった。
 東京湾アクアラインが出来るまで、主要なルートは横須賀・久里浜から金谷を結ぶフェリーだった。



 金谷に到着したときは、ちょうどフェリー出航する瞬間だった。これが定期性のある交通「機関」の怖いところでもある。乗り遅れまいと、飛ばすこともあって危険な一面が確かにある。
 ここ、東京湾フェリーは頻繁に往復しており、40分後には次の船が出る。その間はターミナルでくつろぐもよし。



 バイクを甲板に乗せ、船員に固定を任せる。いつもこの瞬間は不安なもの。オフロードバイクは比較的丈夫でラッシングベルトもかけやすいから安心だが、カウルなどに触れているとやはりちょっと不安。外車はスタンドが弱いものが多い(とくにオフロード車は、スプリングでサイドスタンドを浮かせているものが多く、ちょっとした振動で外れたりする)ので、固定作業は見て置いた方がいいだろう。



 船室でくつろぐ。船のいいところは、ゆったりとした乗り心地。お休みタイムには最適な空気を感じる。
 そんな船旅もわずか40分、久里浜の港が見えた。下船の準備をして甲板に向かう。バイクは不利だ。両サイドに詰め込まれるため、出るのは最後になってしまう。

 先を急ぐなら、そして時間を有効に使いたいなら、自走するのが手だろう。
 しかし、海に橋を架けたり、海底にトンネルを掘ったりすることは巨大な費用がかかる。そして、それを30年で償却しようとすると、その通行料金は高くなる。



 東京湾アクアラインの通行料金は、3200円だ。(バイクの場合)
 対する、東京湾フェリーでは、750cc以下で1280円。一往復半出来てしまう。
 そしてなにより、高速道路であるアクアラインには、125cc以下は通行が出来ない、ということが挙げられる。フェリーならばそういうことは、ない。

 海を渡る。

 あなたはどうやって、どこへ行く?

写真・文 : 河村 格


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